小さい鉄橋 (17.5 x 25.6 cm)
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時間の取れる日の昼、玉川上水に貼り付いている。見たものを持ち帰る。
しばらく玉川上水で木を描いて「木のことをよくわかってなかった」と思った。きょうは絵の具ボックスを開けずに、鉛筆で葉っぱを描いたり、木の幹と枝を描いたりした。
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よく描く木の幹の部分。図鑑で名前を調べてみた。「イヌシデ」に似てるような...未確定。
ソメイヨシノの葉っぱ。太い幹から出ていた部分。
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水彩紙にこもれびが当たってきれいだった。複雑なエッジ。これ、どうやったら持ち帰れるだろう?
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描いてみてほっとした。今まで鉛筆で描くのをしていなかった。
2008年、アホな大学院生だった私は、神経科学者デビッド・マーの「ビジョン」を読んで「知るべき脳の全てはこの本の中に書いてある」と思い込んだ。
デビッド・マーはイギリスの神経科学者。1945年生まれ。生理学、心理学、計算機科学など幅広い分野に精通し、MIT心理学科の助教授として視覚研究を進めた。「ビジョン」執筆中に白血病の診断を受ける。1980年に35才で亡くなった。
当時参加した神経回路学会の若手研究者向けワークショップで、講師の先生がこの本と、デビッド・マーが提唱した「脳を理解するための3つのレベル」を紹介してくださった。気になって本を手に入れた。
確かに冒頭「脳を理解するための3つのレベル」がまとまっていた。以下の3つが分かると、脳が分かったことになるらしい。
- 脳の計算の目的は何か。なぜその計算が適切なのか。目的に向けた実行可能な方法とは何か。[計算理論]
- 計算理論はどのようにして実現できるか。特に入力と出力の表現は何か。変換処理のためのアルゴリズムは何か。[表現とアルゴリズム]
- 表現とアルゴリズムは、どのようにして物理的に実現されるか。[ハードウェアによる実現]
まとまっている。何だか分からないけど、3つにまとまっている。これさえ分かれば、難解な脳のことがあっさり分かる気がする。デビッド・マー。すごい。今後調べるべきことが、こんなにクリアにまとまっている。脳の研究はどんどん進むだろう。むしろ、なんでまだこんなに進んでないんだろう。この本はすごい。きっと他にも知るべきことが書いてある。読破して理解すれば、すごい研究者になれそうな気がする。私は「ビジョン」を読むことにした。
序盤から数式。謎のグラフ。「原始スケッチ」「ゼロ交差」「2と2分の1次元スケッチ」聞きなれない単語が次々現れる...。だんだん、読むのが辛くなって、とりあえず本のページをぱらぱらめくった。
すると、後ろの方のページからこんな図があらわれた。
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らくがき ?
もう少し図を見る。
だいたいの "もの" は真ん中に軸がある、ということらしい。
円筒で作る動物。かわいい。つみきみたいだ。
なんだろう、美術の参考書で見たような。
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図を見ているうちに妙な直感が降りた。
「絵を描く人」は、この本の中に書いてあることを「知っている」気がする。
直感としか言いようがなかった。でも、図を見るたびそういう気持ちがしてくる。この本は「絵を描くこと」と関係する。「自分も絵が描けたらなあ」と思った。絵が描ける人なら、何が書いてあるのか分かりそうな気がする。とにかく、この本には間違いなく自分にとって非常に重要なことが書いてある。何度も読んで自分のものにしたい。そうしたら、きっといいことがある。
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そう思って今も「ビジョン」を読んでいる。飲み込める場所が少しずつ増えてきた。 外に出るのが難しい時期、難しい本と因縁があるのは幸せなことだと思った。
結局、先の直感が正しかったのかは正直なんとも言えないのですが、今後、絵描きから見た「ビジョン」のことを書いてみたいと思っています。分かるところから少しずつ書いて、Blogに放り込みます。
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*日本語版「ビジョン」の翻訳者・乾俊郎先生の解説論文が読めます。[pdf]
https://www.jstage.jst.go.jp/article/itej1978/42/9/42_9_911/_pdf
色試しの紙。
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駅ビルの休憩スペースでぼんやりしているとき、正面の島村楽器から電子ピアノの音が聴こえた。女の子が試奏用の電子ピアノを弾いていた。
女の子はしばらく軽快に弾き続けたあと、何か不協和音を弾いた。女の子は「あれ?」という感じで弾くのを止めて、それから右手左手ばらばらに、あちこち色々な音を弾いた。しばらくすると、曲の最初からまた弾きはじめた。それからまた、同じところで不協和音を弾いた。2,3回、止まってはまた最初から、止まってはまた最初から弾くのを繰り返したあと、弾くのをやめて別の楽器コーナーへ行った。
最近、よくこの出来事を思い出す。あの子、今は曲を通しで弾くだろうか。