吉祥寺・中道通りの床屋さん (24.2 x 33.2 cm) 。
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個展中、アートギャラリー絵の具箱が入っているマンション入口の階段から描いた。
絵の具箱さんで展示をするたび、この建物が気になっていた。
ギリギリ限界まで描き込もうと思った。
描き始めて3日目、床屋のご主人に声をかけられた。
「ずっと描いてるんだねえ」
「すいません..」
「ここは借家なんだよ」
「借家なんですか」
「私もねえ、美術館なんかよく行くんだよ」
毎日描いてたら、そのうち「おーい、まだ完成しないのかい」と言われてしまった。
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昨日、おおよそ描き上がって、ご主人に見せに行った。
「ああ、色がついてるねえ。描いてくれて嬉しいよ。」
おそるおそる「いりますか?」と尋ねたら「いいよ」と断られた。
「あのね、うちはね、誰でも特別扱いしないの。昔はね、芸能人の人も来て髪を切ってたんだよ。よく写真も撮ったりするけど、サインもいらないの。」
なんとなくわかった。実は、断られる予感がしていた。
「冬はベランダから干し柿を干すんだよ。」
「そうなんですね。ありがとうございました。」
絵は持ち帰って、もうちょっと描き込んだ。