アトリエ・サルバドールの冒険

水彩絵描き・ますとみけいのBlogです。

近況

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妊婦健診で都立病院 (多摩総合医療センター) に行くようになった。

待合の間、吹き抜けから正面入口のスケッチをした。手首で検温する機械、誰が手首をかざしてもエラーが出て計測し直しになる。都の職員さんがつきっきりで対応していた。

検診は無事終わった。お医者さん曰く「赤ちゃんは標準の下限ぎりぎりの大きさですが、元気そうなので大丈夫です」とのことだった。良かった。「今コロナにかかったらどうなりますか」と尋ねたら「ああ、検診の日をずらしますのでお電話ください」と笑顔で言われた。軽かった。昨日のニュースで「妊娠後期は重症化しやすい」と聞いて、今かかったら即入院になるんじゃないかと思っていた。案外、大丈夫ってことなんだろうか。これまでずっと対応を続けて、たくさんのケースを見てきたお医者さんからすると、何か、そういうものなんだろうか。とにかく、軽い感じだったのでほっとした。かからないに越したことはないから、できる限りの対策はする。自己防衛だ。この先起こることが全然読めない。

武蔵国分寺公園の脇を歩いて、国分寺駅まで戻った。

 

個展「スケッチと絵」を開催します

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2/22(火)から2/27(日)の期間、日本橋(東京)のArt Mall 2Fギャラリーで個展「スケッチと絵」を開催します。昨年と一昨年に描いたスケッチを中心に、額装もしくはマット紙にくるんで展示します。オンラインでもご覧いただけるよう準備します。

Art Mallさんは日本橋の商業ビル・COREDO室町の裏にある小さなギャラリーさんです。2Fは窓のある開放的なギャラリー、1Fは気軽にお部屋に飾れる小さな絵をたくさん取り扱うショップです。

昨年は緑道をスケッチしていました。光源位置がすぐ変わり、くもったり晴れたりして光量もどんどん変わる外環境で、無数の"緑の何か"に囲まれて描いていると「目とは一体何をしている器官なのだろう」ということが気になったりします。(これは、私が研究をやっていた頃からのテーマだったりします。) それから「スケッチってなんなんだろう」とか... 得たものが絵に反映されているかはわからないのですが、今年分までの観察と発見について、ご覧いただけたら嬉しいです。

.....
水彩絵描き・ますとみけい個展「スケッチと絵」
2022年 2月22日(火)-27日(日)
12:00-20:00 [最終日17:00まで]
日本橋 Art Mall
103-0022 東京都中央区日本橋室町1-13-10
東京メトロ「三越前」駅A4出口徒歩3分

goo.gl*状況に伴い、開催内容が変更となる場合がございます。
ご来場前にArt MallのWebサイトをご確認ください。

www.artmall.tokyo

 

あけましておめでとうございます。

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あけましておめでとうございます。 本年もどうぞよろしくお願いいたします。

...

色々なことが少しずつ落ち着いて、穏やかな1年になればいいなと思います。今年は生活が大きく変わりそうです。ぼちぼち描いていきますので、またご覧頂けたら嬉しいです。Blog・SNSも去年より少し更新を増やします。

* 2/22(火) - 27(日) 日本橋 (東京)のArt Mall 2階ギャラリーで個展を開催します。2021年に描いたスケッチと絵を展示します。

 

近況

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お腹に赤ちゃんがいる。順当にいくと春ころ生まれる。

標準より少し小さいらしい。総合病院へ転院することになった。エコー検査の結果「今のところ体格的なものだと思う。経過を観察しましょう」ということだった。無事出てきてほしい。

私はこれまで「何で生きてるんだ」と悩んでいる時間が長かったから、正直、子どもが生まれることも怖かった。同じ悩みを抱えた人間がもう一人生まれてしまうんじゃないかと思うと、考えるだけでつらかった。

今は少し落ち着いた。このまま落ち着いてやっていきたい。

いろいろあると思うけど、自分なりの楽しみを見つけて楽しく生きてほしい。そのためのサポートをできるかぎりする。大変なこともたくさんあるけど、面白いこともたくさんある。そのことを身をもって教えてあげられたらいいなと思う。

 

井の頭公園アートマーケッツ(12/25)に出店します

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12/25(土) 井の頭公園アートマーケッツ、年内最後の出店をします。風景・おやつのポストカードと合わせて、Happy Holidayグリーティングカードを持って行きます。どうぞ遊びにいらしてください。10時から16時まで、おおよそ地図のピンのあたりにいます。

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goo.gl

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ちなみにこちらのグリーティングカードですが、12/24・25の2日間、お近くのセブンイレブンのマルチコピー機からも出力いただけます。プリント> ネットプリント> 予約番号 「 NFT4SFBY 」を入力すると出てきます。良かったらどうぞお試しください。1枚60円、12/25(土) 23:59までです。

 

井の頭公園アートマーケッツ(11/14)に出店します

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井の頭公園アートマーケッツ 11/14 (日) に出店します。風景のポストカード・おやつのポストカードを持っていきます。どうぞお散歩がてらお立ち寄りください。

10時から16時まで、おおよそこのあたりでお店を出しています。

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大風が吹いたり、雨が降ったら一度お店を閉めます。Twitterからお知らせします。

 

小平ふるさと村・スケッチ体験会「絵はがきを描いて送ろう」で講師をします

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今週末10/23(土)、東京都小平市の古民家園・小平ふるさと村でスケッチイベントをします。小平ふるさと村主催「絵はがきを描いて送ろう」というイベントで、園内を散策しながらはがきにスケッチしたり、ぬりえコーナーで色を塗ったりして遊べます。描いた絵はがきは切手を貼って、入口の丸ポストから投函できます。切手とポストカードは会場でご用意しております。画材・画板も数種類貸し出しますので、どうぞ色々お試しください。詳しくはこちらのポスターをご覧ください。

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当日の会場で、小平ふるさと村・オリジナルフレーム切手をお渡しできることになりました。

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日本郵便謹製・正真正銘の63円切手です。数量限定のため、配布終了時は通常の63円切手になります。ご了承ください。

主催者内で「切手って郵便局以外で売って大丈夫なのか、法に触れたりしないのか」という懸念があがっていたのですが、関係各所(郵便局・国税庁)に問い合わせた結果「大丈夫」ということで落ち着きました。プレミア付きなどを大量に、ビジネスとして売るのでなければ許可を取らなくてもいいそうです。

さらに余談ですが、切手作成サービスに画像を送信したところ「丸ポストっぽいものが描いてありますが、あの形状は私共の登録商標(?)なので、切手にしていいかちょっと審議します」と連絡があり、少し待った後OKが出ました。あんましっかり描いてなくて、今回はよかった...


...
小平ふるさと村・スケッチ体験会「絵はがきを描いて送ろう」
2021年 10月23日 (土) ※雨天時は24 (日)に順延
10時 - 15時半  開催中のいつお越しいただいても大丈夫です。
オリジナル切手は数量限定のため、終了時はご容赦ください。
参加費: 100円
どなたでもご参加いただけます。
汚れても大丈夫な、暖かい服装でお越しください。


場所: 小平ふるさと村

*駐車場がありません。ご来場の際はご注意ください。

goo.gl西武新宿線「小平駅」「花小金井駅」から徒歩20分です。

 

井の頭公園アートマーケッツ(10/10)に出店します

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井の頭公園アートマーケッツが再開されました!とても嬉しいです。長くこの日を待っていました。10/10 (日) に出店します。絵のポストカード・おやつのポストカードを持っていきます。どうぞお散歩がてらお立ち寄りください。

10時から16時まで、おおよそこのあたりでお店を出しています。

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www.google.co.jp

夏に新しく作った「海辺」「東京駅丸の内駅舎」「さくらもち」と「おやつのポストカード」全種類を持っていきます。

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お天気も良いようで楽しみです。大風が吹いたり嵐が来たりしたら退避します。見当たらない時はTwitter、Facebookをご覧頂けたら助かります。

 

自信を持って生きる (亡くなったKさんの思い出) (11終)

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(1へ)

...

(10から続く)

 

食堂を出てKさんと話した。

研究所の桜がちょうど見ごろで、やや散り始めたところだった。

「ありがとう。絵は大切に飾ります。諸々のことはまたメールしてください」

「ありがとうございます。そうだ、展示を開催するとき、ぜひお知らせを送らせてください。メールでお知らせしても構いませんか」

「紙のはがきも送ってください。研究所宛で大丈夫です」

「わかりました。必ず送ります」

「楽しみにしています」

握手した。

「どうか、健康でお過ごしください」

「ありがとう。お元気で。」

...

 

退職したあとも、時々Kさんと交流を持った。研究所の公開イベントにお伺いして、SさんとKさんの案内で実験設備を見せてもらったりした。Kさんも、はがきを持って私の展示に来てくださった。グループ展の芳名帳にひっそり名前だけ残してくださったこともあった。

2019年の冬、個展のお知らせに返信を頂いて、それが最後のお便りだった。

2020年1月、Yさんから「Kさんが亡くなった」と連絡があった。

 

...

私は、Kさんとの思い出を「物語」として書いた。

絵の依頼を受けた時、Kさんから「物語の中で生きつづける」ためのお手伝いを任されたように感じたからだ。この感覚は、送別会の日のKさんを見て「間違いなくそうだ」という確信に変わった。

本当にこれで良かったんだろうか。

私はKさんに「現実で生きる」ことを勧めるべきだったんじゃないのか。入院治療を促し、自助グループにつなげていたら良かったんじゃないのか。せめて私は、最後の送別会の日「もうこれ以上飲んではいけない」とKさんを止めるべきだったんじゃないのか。

過去の判断を思い悩む時、Kさんが言っていた「何が正しいなんてないんですよ」というひとことを思い出す。この言葉は、秩序を破壊する混沌の言葉だ。だけど、不思議と心が落ち着いてくる。「どんな選択をしたとしても、ただその結果があらわれるだけだ」と思えるようになってくる。

治療の開始をKさんに勧め、研究所に状況を知らせた時点で、私は「Kさんの死の責任を負わない」と決めた。自分の心を守り、自分の人生を続けるためだ。

 

...

Kさんという方が亡くなった。

飛行機の研究所で働いていた時の上司さんだった。お茶目でシャイで、とんでもない方だった。Kさんと一緒に仕事ができて、私は本当に楽しかった。

私はKさんとの交流を通して、大事なことを教えてもらった。

自信を持って生きる方法、それは「自分を"装う"のをやめる」こと。

自分の性質をまっすぐ見ること。怖がりなら「怖がりだ」と認めること。自分の性質を認めた上で「それでもいい」と自分を許してあげること。

「装わなければ恐ろしいことになる」という不安な気持ちと向き合うこと。自分の身体を傷つけないで、不安をなだめるすべを身につけること。他人の身体や心を使って、自分の不安をなだめようとするのをやめること。

私はKさんと同じように「物事の暗い側」を見るのが好きだった。だけど、KさんやYさん、研究所の方々と一緒に過ごして「明るい側を見たい」と思った。今も暗いものに心惹かれる。それでも「明るく生きていたい」と思う。

...

「文字として書ける」ということと「実践できる」ことの間には、いつだって大きなへだたりがある。頭でわかっていることが、実際できるようになるまで、とても長い時間がかかる。

やめ続けること。やり続けること。

まずは自分から始めること。

私はこれから、そういうことをやっていきたい。

 

 

自信を持って生きる (亡くなったKさんの思い出) (10)

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(1へ)

...

(9から続く)

 

Kさんからの依頼を受けたあと「かぼちゃ人類学入門」という本を買った。

"かぼちゃ島"で暮らす"かぼちゃ人"のつつましい暮らしを鳥の視点から描いた絵本だ。小さい頃、この絵本がとても好きだった。絵の中に入って、自分もかぼちゃ人と一緒になって、かぼちゃ島で暮らす様子を想像して過ごした。

かぼちゃ人はボロボロの服を着て、土の匂いのする町に暮らす。好きな時間に食べて、好きな時間に飲んで、好きな時間に眠る。狭い路地に囲まれた町で、道ごしに窓と窓からおしゃべりをする。ぬるい温泉につかり、舞台でお芝居を見て楽しむ。

途中、島の歴史が描かれる。かぼちゃ人は初めからこういう暮らしをしていたわけではなかった。かつては世界中からたくさんの船が来て、かぼちゃ島の"肉"を輸出していた。かぼちゃ人は大儲けした。島には高い建物が建ち、店には珍しい品々が並んだ。だけど、そういう暮らしを続けるうち、かぼちゃ島のおなかは掘り尽くされて、空っぽになってしまったのだった。

一度死にかけたかぼちゃ島は、島そのものの生命力と、かぼちゃ人の努力によって、長い時間をかけてよみがえった。そうして、かぼちゃ人は島の恵みを大切に使う、新しい暮らしを始めたのだった。

Kさんから依頼を受けた時、この本のことが頭に浮かんだ。

「いつの日かこういう絵本を描いてみたい」と思っていた本だった。

「かぼちゃ人類学入門」を参考に、Kさんの絵の下書きをはじめた。

...

描きながら、自分の数年間を振り返った。

絵の仕事を始めた頃、私が目指していたのは「人に見られて恥ずかしくない絵」だった。「仕事をもらえる絵」「依頼主からOKをもらえる絵」「Webサイトに乗せても恥ずかしくない絵」「この絵描きは"できる"と周囲に示せる絵」...研究からドロップアウトした私は、絵の世界に逃げ込んで、前やっていたのと同じように「よくわかってるフリ」「なんでもできるフリ」を続けようとした。そうして、他人も自分も騙そうとして、まず自分を騙しきれなくなって、神経性の病気になった。

飛行機の研究所に来て、Kさんと一緒に働くうち、私は少しずつ良くなった。自分と似て、恥ずかしがりで、凝り性で、落ち込みやすいKさんに「大丈夫です」「なんとかなります」「ものごと案外大体でいいんです」と言い続けるうち、自分の方が「大丈夫だ」「なんとかなる」「ものごと案外大体でいい」と思えるようになってきた。「なんでも、とりあえずやってみたらいい」という気持ちになってきた。私は、奇妙な形でKさんに"治して"もらった。元通りではないけれど、新しい状態にしてもらった。

「お礼の気持ちを込めて描こう」と思った。

 

絵は、なんとか仕上がった。

...

3月の勤務最終日、Kさんのところへ絵を持っていった。

「絵です。仕上がりました」

「ああ、良かった。この紙袋ですか」

「はい。額装したので、ちょっと大きめになりました。開けてみてください」

「いま開けるのはよしましょう」

「え?」

「今日の送別会のとき、食堂に行って開けましょう」

「え??」

Yさんが居室にやってきた。

「お久しぶり!」

「Yさん!お久しぶりです」

「どうだった?元気だった?」

「おかげさまで元気です。今日はちょっと寝不足ですが」

「そうなの?なんで?」

今日までKさんの依頼製作をしていて、夜中に仕上げをやったことを話した。

「なにそれ!すごい!じゃあ、この紙袋の中身が絵?よし、おひろめ会しよう!」

「おひろめ会!?」

「だってほら、送別会だよ?盛大に送りたいよ。おひろめ会しよう!」

...

夕方、研究所の方々が食堂に集まってきた。

テーブルにはサンドイッチ、オードブルの皿、ビールや酎ハイの缶が並んだ。

人が集まったころ「あー!Kさん!なにやってるんですか!」とYさんが叫んだ。

Kさんが会場端のテーブルに座って、焼酎の瓶から中身を注いで飲んでいた。

「まだ乾杯前じゃないですか。それにお医者さんもだめって言ってるのに」

「いやもう、私はいいんです」

「え、ほどほどにしなきゃだめですよ?」

(ああ)

私はこの日、Kさんを止めようか迷った。だけど、結局止めなかった。

...

会場が盛り上がってきたころ、Yさんが「ちょっと注目!」と言った。

「きょうはね、絵のおひろめ会があるんですよ」

「絵?おひろめ会?」

「ではKさん、どういうことか説明してください」

「はい」

Kさんが話しだした。

「退職記念に、この人に絵を描いてもらったんです。私の個人的な依頼です」

「そういえば、本業イラストレーターの人が働いてるって言ってましたね」

「きょう退職ですか...研究発表の絵、代わりに描いてもらえばよかったな」

Yさんが紙袋から額の入った箱を取り出した。

「これはどういう絵なんですか」

「私の "理想の飛行機" です」

「"理想の飛行機"!?」

「そう、私は別に、速く飛ぶ飛行機がほしいわけではないんです」

Yさんが「じゃあ、おひろめします!」と言って、額の入った箱を開けた。

「ジャン!」

人がたくさん集まってきて、額の中の絵をのぞきこんだ。

「おお」

「絵本みたいだ」

「これ、飛行機の中?」

Yさんが「Kさん!いかがですか?」と言った。

Kさんは、絵から離れた場所で「よく見えない...」と言っていた。

「ここ、機内で酒盛りやってるぞ」

「おお、めっちゃ盛り上がってますね」

「頭にネクタイ巻く人って今もいるんかな」

「俺、一回もやったことないですよ。そもそもネクタイしない。する機会がない」

Kさんが絵に近づいてきて、絵の中をじっと見始めた。

「動物がいっぱいいるぞ」

「人間のキャラクターは、私がKさんから指示をもらって描いているんです。動物は私がイメージを足しました」

「あ、ここに描いてあるの、もしかして僕ですか?」

「そう、Sさんです。YさんとKさん、Sさんは中に描かせていただきました」

「カードゲームしてる人がいる。外国の人かな」

「ホシモがいる!」

「ホシモです。面白い形してますよね」

「飛行機、みんなで靴下脱いで乗れるのはいいよなあ。やっぱ窮屈だからさ」

「それはわかる、すごいわかる」

「おい、パイロットが寝てるぞ!」

「この機はAI制御でオートパイロットなんです」

「アテンダントさんが膝ついてお茶入れてる..」

「この機ならいいんじゃない?」

「旅客機っぽい主翼がありますね。てことは、垂直離着陸じゃないな。離陸の時どうなるんです?客室が傾いたら、みんな転がってっちゃうんじゃないですか?」

「まあ、そういうことはいいんですよ」とKさんが言った。

「いやあ研究者としてはやっぱ気になるでしょう」

「いや、もうこの際いいんです」

研究部の部長さんが言った。

「そうかあ、K君はこんなことを考えてたんだなあ」

「実は、そうなんですよ」

「普段、何考えてるか全然わかんないからさ。そうかあ、こんなこと考えてたんだなあって」

「ふふ」

Kさんは嬉しそうだった。

私は「Kさん」と声をかけた。

「絵、どうでしょうか」

Kさんは、絵を手に持ってじっと見つめた。

そして、言った。

「ああ、いい。これは、私の理想に限りなく近い。」

それから、絵を見つめたまま、はにかんだ顔をして「ありがとう」と言った。

嬉しかった。絵が描けて本当に良かったと思った。

「こちらこそ、ありがとうございました。すごく楽しいお仕事でした。」

パーティの終わりに、みんなで絵を囲んで記念撮影をした。

 

...

(11終へ)

ateliersalvador.hatenablog.jp

 

自信を持って生きる (亡くなったKさんの思い出) (9)

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(1へ)

...

(8から続く)

 

ある日、食堂から戻る途中、Kさんがぼそっと言った。

「何が正しいなんて、ないんですよ」

自分の中で、とてもはっとする言葉だった。

「ないんですね」

「そう。ないんです」

そうして、Kさんも私も黙ったまま居室に戻った。

...

2月の終わりになった。

あらためて、職場を離れる意思をKさんに伝えた。

「すみません。色々お世話になりました」

「君はいつもそう、はっきり言ってくれたらいいんですよ。そうしたら、こっちも心の準備ができるから」

「すみません..」

「引き継ぎの資料を作ってください。今まで作ったプログラムについては、資料を読めば誰でも使えるよう細かく整備してください」

「はい。できる限り手を入れます」

「お願いします。ところで、春からどうするんですか」

「まだ悩むことは色々あるんですが、個人的な製作をメインに活動していこうと思います。それから、水彩画の先生の教室に通います。水彩の基礎を学んできます」

「ああ。いいですね」

「ありがとうございます」

「そうだ。最後に私から、個人的に絵の仕事をお願いしたい」

びっくりした。

「絵ですか」

「そうです」

「どういった絵でしょう」

「明日、休憩のとき詳しく話します」

...

翌日、休憩スペースでKさんと向かい合った。

「私の頭の中にある "理想の飛行機" を描いてください」

「Kさんの、理想の飛行機ですか」

「そうです。詳しく話すのでよく聞いてください」

 

「正直、私が作りたい飛行機は、極音速でも超音速でもないんです。速く飛ばなくたっていい。私は、ゆっくり旅がしたいんです。フェリーみたいにゆっくり進む飛行機がほしい。機内に入ったら、靴を脱いで上がれるごろ寝のスペースがあって、そこに雑魚寝の乗客がたくさんいる。広々としたカーペットの上で、それぞれの人たちがめいめい思い思いの楽しい時間を過ごす。こういう飛行機のイメージが私の中にずっとあります。私は長い間、このイメージを絵にしたいと思っていた。だけど、私は思うように絵が描けない。私に代わって、このイメージを具現化してください。これから言うことのメモを取ってもらえますか」

「はい」

「そうしたら、まず、絵の中にはたくさんの人を描き込んでください。毛布にくるまってのんびり寝ている人、友達数名と車座になってカードゲームをやっている人、走り回っている子ども、一人で本を読んでいる人、カーペットの上にはお茶のシミができてたり、食べ終わったお弁当のカラが散らかってたりする。おみやげの紙袋もあるといいですね。外国の人も交えてください。あとは、せっかくだから、ちょっとキュートなCAさんもいてほしいかなあ。そうだ、日本酒の瓶を抱えて酒盛りをするサラリーマン。これは絶対に描いてほしい」

「わかりました」

「フェリーに乗ったことはありますか」

「あります。私も船の旅が好きなので」

「あの感じです。できる限り細かく描いてください」

「わかりました...この機は、ドローンみたいに垂直離陸するイメージですか。離着陸の時シートベルトがないと、機が傾いたらみんな転がってっちゃいそうですが」

「まあ、そのあたりはお任せします」

「わかりました。絵のタッチは何かご希望がありますか」

「水彩がいいですね」

Kさんは手元のノートパソコンを開いた。

私のBlogが表示されていた。

「どれか、わかりやすい絵がないかなあ」

「Kさん、Blog読んでたんですか」

「読んでますよ。『アトリエ・サルバドールの冒険』。ずっと聞きたかったんですが、なんでこんなタイトルにしたんですか」

「毎日が物語みたいになってほしくて...最初は、もっと紀行文を書きたかったんです。あと『シャーロック・ホームズの冒険』のオマージュで...言ってて恥ずかしくなってきました」

「あった。航空記念公園の絵。この絵が一番イメージに近い。こっちの飛行機の絵だとちょっと違うな。もう少し人を細かく描いてほしい。あとこっちの絵、これは雑すぎる」

「すいません...」

「でも私はあなたの絵が好きです。みんな、半分夢の中にいるような。」

(ああ)

Kさんの言葉は、とてもしっくりくるのだった。

「ありがとうございます。そういう絵が描きたかったんです」

「良かった。今回描いてもらう絵もぜひBlogに載せてください。この先、あなたが絵本を描く仕事をするとき、編集者さんに見てもらったらいいと思います」

「助かります。ぜひご紹介させてください」

打ち合わせはまとまった。

Kさんはニヤニヤしながら、ゆっくり言った。

「期待しています」

私は苦笑してしまった。

「ありがとうございます。ご期待に応えられるよう、精一杯頑張ります」

...

(10へつづく)

 

ateliersalvador.hatenablog.jp

 

自信を持って生きる (亡くなったKさんの思い出) (8)

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(1へ)

...

(7から続く)

 

新しい仕事は難航していた。

私とSさんは、Kさんがいない時に居室で状況を相談しあった。

「私たち、いっそ、できないことはできないって、Kさんに言った方がいいと思うんです」

「そんなこと簡単に言えませんよ。"できない"って言ったら、"能力がない"って思われちゃうんじゃないか、とか...そうしたら職を失っちゃうんじゃないか、とか... 僕は、向こうの家族を路頭に迷わせるわけにいかないんです」

Sさんは中京地域から単身赴任で東京に来ていた。

「そうですよね」

「だけど、今来ている仕事は量もとてつもないですし、内容も難しすぎます。実験設備の仕事も任されているから、これ以上難しい仕事が増えたら、もう手が回りません」

「Yさん、早く戻ってきてほしいですよね」

「そうです。来年Yさんが戻ってくるまで、何とか踏ん張りたいです」

...

組織外の研究者の方を交えたミーティングの後、Kさんと話した。

「この仕事は、私が担える仕事ではありません」

「そんなことはない、あなた方の仕事ですよ」

「私は、Kさんが何を探しているのかわかりません」

「ですからずっと、何らかの"兆し"だと言っているでしょう」

「何らかの"兆し"って何ですか」

「兆しですよ。何かが起こるのです。それは、はっきりとはわからない」

「起こる何かって、何ですか」

「わからないのです。でも起こる。何かが始まる"兆し"が確かにある」

「...」

「そうした"兆し"を捉えるすべを磨くのが、このプロジェクトの趣旨です」

それからKさんは「あなたならわかると思ったのに」というようなことを話した。

このやりとりで、私の "引き金" が降りてしまった。

「嫌になりました」

「...」

「あなたは、ご自身の目でデータを見ない。グラフを描かない。私達に何か探せと指示をする。でも、何を探しているのかはわからない。あなたご自身がわからないまま、私達に『とにかく何か探せ』と言う。それで『見つからない』と言って落胆し、私達の責任にする。やってられません」

Kさんは黙っていた。

「力学に詳しいのはKさんです。少なくとも私はにわかです。あなたが見当をつけることなく、なぜSさんや私が、まだ誰も見もしない、知りもしない、あるかどうかもわからない"何らかの現象"を探しているんですか」

「...」

「大規模データの取り扱いを、一度でもいいからあなたがやればいいんです。まず、グラフを描いてください。Yさんでも、Sさんでも、私でもなく『あなたが』描けばいいんです。そうしたら、私達が今どれだけ茫漠としたところに放り込まれているか、すぐわかるはずです」

Kさんは黙ったままだった。

私は心の中で決めていたことを伝えた。

「来期、私はいないものとして進めてください」

「ああ、そうですか」

「今日は失礼します」

...

帰りのバスの中で、今日起きたことを反芻した。

私は「自分の代わりに、自分の大事なことをさせようとする人間」のもとで働くことができない。怒りを溜め込んで引きこもったり、感情的になったりして、これまでも頻繁にトラブルを起こしてきた。

自分はやらないのに、人に多大な期待をかけて、できないとけなしてくる行為が大嫌いだ。そういう人間の心理が痛いほどわかるから余計嫌なのだ。自分の嫌なところを見せつけられている気持ちになるのだった。

自分がやらずに人にやらせていれば「自分ではやらないけど、やればできるつもり」でいられる。自分でやるのが嫌なこと、やる自信がないことと向き合わずに、ただ結果だけを受け取れる。「やってみたけどできない」恐怖から、うまく目を背けていられる。

そうすることで、心の中の「理想通りの完璧な自分」が壊れないように守っているのだ。そんな「完璧な自分」への期待をそのまま人に渡しているから、要求のレベルは異常に高い。「できて当然」と思っているから、できたことを褒めたりしない。感謝もしない。むしろ「私よりできるなんて」と苦々しく思う。そして、期待通りの働きがなければ、大いにけなしてくる。

おそらく、かつて自分がされて嫌だったことを、そのまま人にやっているのだ。「高い期待に応えられない」状況を、破滅的なできごととしてとらえているのだ。「やってみたけどできない」事態を、なんとしてでも避けたいのだ。

嫌な考えばかり頭に浮かんだ。

Sさんのことを考えた。Sさんはじっと堪えている。私みたいにいきなり職場でキレたりしない。自分と家族の生活のため、粘って仕事を続けている。

...

翌日、Kさんはずっと黙っていた。

Sさんがいなかったので、居室はとても静かだった。

午後3時、お茶の時間になった。

ブルボンのアルフォートを持っていった。

「おやつを持ってきました」

「これ、花輪和一が『刑務所の中』で食べてたやつですか」

「読んだことないんです」

「今度貸しますよ、って、あ、ああ、この前、あの本は捨てちゃったんだ」

「...」

「先日、自宅の断捨離をしたんです。色々処分した。ああ...あの本...なんで捨てちゃったんだろう。捨てなければ良かったのになあ...」

「本ならまた買えますよ。Amazonで買ったらいかがですか」

「まあ、そうですね」

「どんな内容ですか」

「刑務所生活のルポ漫画です。描写がとにかく細かい。特に、食事シーンがいい。休憩時間、配給のアルフォートの数を数えて大事に食べてましたよ」

...

お茶を飲みながら、Kさんが言った。

「あなたみたいにプログラムができるのはいいですね」

「学生時代、スキルは裏切らないと思って必死に身につけました」

「どうやって勉強したんですか」

「低レベルの参考書を複数買って演習しました。わかる範囲が増えたら、前よりレベルの高いものをまた複数買って...それを繰り返しました。でも、一番伸びたのは海外研修の頃です」

「海外行ったって言ってましたね」

「ロンドンに行ってきました。英語が話せなくて、全然研究ディスカッションできなかったんです。喋れないし聴けないから、とにかく大変でした」

「ああ」

「それで、せめて実験用のプログラミングはしっかりやって "会話できてないけど内容はわかってます" アピールをしたかった。あの時の実践でかなり伸びました。研究は、最終的にとてもこじれました」

「私もドイツ行ってたことがあるんですよ。楽しかったな」

「ドイツ語、覚えるの大変でしたか」

「まあなんとかなりました。案外、なんとかなるもんですね」

「Kさん、プログラミングも、やってみたらいいと思うんです」

「...うーん」

「やってみたら、案外できたりします。私も最初めちゃめちゃでしたが、いろいろやってるうちになんとかなりました。それを生かして、今もお仕事させていただいてます」

「私、構えちゃうんですよ」

「...めちゃめちゃわかります」

「...」

「だけど、案外やってるうちになんとかなるんです」

「そうですかねえ」

「ここ数年『やってるうちになんとかなる』って実感する機会が増えました。こちらの研究所でのお仕事をいただいた時も、本当怖かったんですが、勢いで働きはじめて、今はとても良かったと思っています。絵もそうです。途中だいぶきつかったですが、手が進むようになりました」

「良かったですね」

「思うんですが、やらないでいると怖いことも、やると怖くなくなるんです。失敗して痛い目にあったりもするんですけど、怖いのは格段に減って、次以降、動きやすくなるんです」

「ああ」

「プログラミング、いかがですか。奥深いですよ」

「いいですね」

「ぜひ」

「そのうちやるかもしれません」

冬になった。

 

...

(9へ続く)

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自信を持って生きる (亡くなったKさんの思い出) (7)

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(6から続く)

 

飛行機の絵をKさんに渡した後、私はKさんに「絵を描きませんか」と勧めないようになった。そのかわり、個人的な製作をいくつか進めた。

2017年4月に入って、新しい仕事が始まった。Sさん、私、Kさん、研究所内外の方々と連携して、シミュレーションの結果をグラフに落としこむ作業をした。仕事中、Kさんの態度は厳しかった。時に理不尽と感じるような言動もあった。お昼の休憩やお茶をする時の柔らかい表情と比べて、仕事中のKさんは人が違うような感じがした。Kさんの中には、そういう「すみ分け」があるのかもしれなかった。

...

午後3時、休憩スペースでお茶をしていた時、Kさんが絵の話をした。

「絵の学校は、今も行ってるんですか」

「セツ・モードセミナーは、先日閉校したんです」

「閉校?学校がなくなったってことですか」

「はい。開校100周年で、閉じることにしたみたいです」

...

別の日、Kさんがまた絵の話をした。

「今までに禅画を見たことはありますか」

「禅画、この間見に行ってきましたよ。上野で展示があった時に。Kさんのおすすめで」

「...あれ?」

「話しませんでしたっけ、白隠禅師の達磨がすごいギョロ目で...」

「そうだったかな」

Kさんはしばらく黙っていた。

それからまた話しだした。

「あれだけ描けるならいいですよね」

私は「もう一回くらい、絵を勧めてみようかな」と思った。

...

別の日、休憩スペースに月光荘の8B鉛筆を持っていった。

「この鉛筆、面白いんですよ。この間展示をしてきた、月光荘画材店の鉛筆です。最近よく使ってるんですが、不思議な線が描けます。8Bです」

「8B、またずいぶん濃いですね。聞いたことないです」

「ちょっと触ってみませんか」

「うーん」

「こんな感じで描けるんです」

手元のスケッチブックに線を引いた。

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「確かに、面白い線が出ますね」

「鉛筆とコンテのあいのこみたいな感じです。色々な線が引けます」

「しかし、よくそういう単純な線で『ひこうきらしきもの』が描けますね」

「これ、私も結構不思議で、脳の不思議だと思います。意外と『ひこうきだ』って分かるんですよね」

「なぜでしょうね」

「概念は脳の中で、こういう線画に近い情報として保存されているのかなと」

「ふーん。ところで、船は描けますか」

「船、船ですか」

「帆船とか。私、飛行機より船が好きなんですよ」

「ちょっと待ってください。海賊船みたいな船ですか」

「そう。帆があって、3本くらい棒が立ってて、それからこの船首あたり、女神の像がついてるんです。あ、それだと違う」

Kさんは鉛筆を取って、急にさらさらと絵を描きだした。

しばらくして「案外、描けないな」と言って鉛筆を手離した。

「もっと描けると思ってたんだけど」

「すごくわかります」

「サラサラ、とはいかないんだなあ」

「やっぱり、頭の中に入ってないもの、良くわかってないものは描けないんです。今はネットがあるので、画像検索で写真が集まって便利です。昔のイラストレーターさん達は資料集めるだけで相当大変だったそうで」

「しかし、こんなに描けないとはなあ。そもそも手が動かない」

「私、まず丸とか線とか、そういう単純なものをたくさん描く練習しました」

「単純図形の練習ですか」

「はい。学校入りたての頃、まともな線が引けなさすぎて、行きの電車の中でスケッチブックに直線、丸、三角とかS字の線とか、とりあえずそういうものをたくさん描いて過ごしました」

「丸...」

Kさんは、鉛筆を取って丸を描きだした。それから、丸を閉じるとき、手を震わせた。

「ああ、違う」

「え?」

「こうじゃない」

Kさんは、丸の隣に渦巻きを描きだした。

それから、ぽつりと言った。

「メイルシュトローム」

それから、また別の渦巻きを描きだした。

「メイルシュトロームだ」

「何ですか」

「メイルシュトローム」

そしてまた渦巻きを描いた。

「メイルシュトローム」

「何なんですか、それ」

「ということは、君はエドガー・アラン・ポーを読んだことがない」

「ないです。名前しか知りません」

「読むといいですよ。ポーの短編に『メイルシュトロームの恐怖』という話があります。私は子供の頃読んで、とてもイマジネーションを掻き立てられた」

「どういう話なんですか」

「船が大渦に飲み込まれる話です。渦の名前がメイルシュトローム」

「船はどうなったんですか」

「どういう話だったかな。兄弟の乗る船が大渦に飲まれた。兄は戻って来られなかった。弟は脱出して語り部になった」

それからまた「メイルシュトローム」と言って渦巻きを描いた。

スケッチブックは渦巻きだらけになった。

私は、閉じない渦巻きを見ながら、上野の展示で見た禅画の円相図を思い出した。

円は「完全なるものの象徴」だという。じゃあ「渦巻き」は何の象徴だろう。

帰りのバスの中で、延々と考えていた。

Kさんと話していると、絵心を掻き立てられる感じがする。それと同時に、自分の描く絵が、暗い方、光から遠い方へ引きずられていく感じがする。自分の内側にある不安や恐怖が、増幅されて形を持って沸き出すよう、うながされている感覚だった。

 

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(8へ続く)

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自信を持って生きる (亡くなったKさんの思い出) (6)

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(5から続く)

 

Kさんの年賀状と紙束を見てから、私は考え込んでしまった。

同じ夏、1枚の絵の製作に膨大な時間をかけて以来、私は「次の絵」を描く気力を失っていた。暑い夏の日にスケッチに行って、数百枚の写真と数十本の動画を撮り、自宅に戻って整理した。絵の中に描く工業製品の構造を詳しく調べた。絵は、なんとか仕上がった。

1枚描くたびこんなに疲れてたら、先が続かない。"絵を描き続けられる"のが絵描きだ。こんなにすぐ気力をなくしているようでは、私は"絵描き"にはなれない。

そういうことをぐずぐずと考えていた。

この間、私は絵を描かなかった。

...

職場では、相変わらずKさんに絵を描くことを勧めていた。

「Kさん、らくがきをはじめてみませんか」

Kさんは言った。

「毎回言いますが、そういうのは『あなたが』すればいいんですよ」

「やってみたら楽しいかなと思って」

「やりません」

「ちょっとやってみるくらい、いいじゃないですか」

「そういうのはいいんですよ」

Kさんの顔色は、度々赤黒くなっていた。

...

2017年3月、年度末になった。Yさんの異動はもう1年続くことになった。

Kさんから話があった。

「4月からの仕事ですが」

「どういったお仕事でしょうか」

「大規模データから『特殊なできごとの兆し』を見つけ出してください。一体どんなできごとなのか、どのような形で埋もれているか、本当のところはわからない。その定義からが仕事です」

「...難しそうに聞こえますが」

「得意だと思いますよ。手伝ってもらえませんか」

ここまで2年続けてきた、Yさんのデータの解析は終了になった。次の1年、Kさんからの指示を受けて仕事をする。残業も増える見込みになった。

...

帰りのバスの中で「絵が描きたい」という気持ちになった。

研究所のWebサイトから、研究所の飛行機の写真資料を取ってきた。

いくつかの資料を組み合わせながら下絵を描いた。

「本当に飛んでるみたいに、本当に飛んでるみたいに」と念じながら描いた。

なぜか、するする描けた。

いつも通り、気に入らないところはたくさんある。だけど「紙の向こうに飛行機がある」感じに近づいた。

ほっとした。やればできる。飛行機なんて描いたことなかったけど、やってみたら案外描ける。私はいつもこの「ちょっとだけやってみる」がとても難しい。ごちゃごちゃ考えて、何もしないでビビってやめる。ほんの少しだけ、まずはやってみれば終わることが、なぜかできない。考えすぎる。

絵を額に入れて、研究所へ持って行った。

...

年度末の最終出勤日、絵の入った箱をKさんに渡した。

「これは何ですか」

「開けてみてください」

Kさんは箱を開けて、絵をじっと見た。

「我々の飛行機ですね」

「水彩で描きました」

「...」

「差し上げます」

Kさんはしばらく絵を見ていた。

それから、絵を休憩スペースに持って行った。

「どこがいいですかね」

カレンダー用のフックにひっかけた。

「ここにしましょう」

飛行機の絵は、居室の休憩スペースに飾られることになった。

...

 

(7へ続く)

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自信を持って生きる (亡くなったKさんの思い出) (5)

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(4から続く)

 

Kさんがあまりにかたくななので、私はむしろ面白くなってしまって、食堂に行くたび、しつこくKさんに「絵を描きませんか」と言い続けた。

「Kさん」

「本当にしつこい人ですね...絵の話でしょう」

「おっしゃる通りです。描きませんか」

「描きませんよ。あなたが描けばいいじゃないですか。最近描いてますか」

「水彩がいいと思うんです」

「水彩だろうがなんだろうが描きません。あんな難しい画材は使いません。やり直しがきかないでしょう」

「それがいいとこだったりするんです。あと、ちょっといい紙使うと、案外色々できたりします。これが結構面白くて...」

「描きませんよ。あなたが描けばいいでしょう。描けるんだから」

「描けてるうちになんか入らないです。本とネットで聞きかじって、適当やってるだけなんです。それでもなぜか、なんとなく絵が仕上がるところも水彩の不思議でして...」

「何を言っても描きません」

「以前は何を使って描かれてたんですか」

「油ですが」

「水彩いいですよ!セットアップが気軽なんです」

「どこが気軽なんですか!あんな難しい画材。居室に戻りましょう」

「はあ...」

...

しつこく言い続けたある日、居室でKさんが言った。

「わかりました。あなたに見せてあげましょう」

「何をですか」

「私が描いた絵です」

「え?」

Kさんはデスクの引き出しから、口を糸巻きで止めるタイプの大きな書類封筒を取り出した。封筒は紙で膨れていた。

「まさか、これ全部絵ですか」

「いえ」

Kさんは封筒から紙束を取り出して、中から一枚のはがきを見せてくれた。

ファンシーなキャラクター達が、笑顔で手をつないで輪を作っていた。

「何ですかこれ」

「年賀状です」

「...すごいかわいいです」

「...」

「Kさんが描いたんですか」

「『ファンシー動物イラスト講座』みたいな本を見ながら描きました」

「このぺったりした着色、どうやってやったんですか」

「プリントゴッコです。使ったことありますか。簡単に多色刷りができるんです。今は、もうないのかな」

「これ、線と色の位置、少しずつずらして押してますか」

「そう。ハイライトを作るんです。こういうのいいですよね」

「よくこの方法をご存知でしたね... 封筒に入ってる他の紙は何なんですか」

「ああ、これは」

紙束を受け取って、中身を見た。

残りの分厚い紙束は、すべてこの年賀状のための版下、下描き、初期検討のためのメモだった。キャラクター1匹1匹の位置、線の細さ、色の塗り分け、色ずれの位置が、A4コピー用紙何十枚分にも渡って細かく調整されていた。

「これ、全部、この1枚のはがきのためですか」

「そうです」

「この制作、どれだけかかったんですか」

「忘れました。結構かかった。こうして見ると、ライオンさんはうまく描けたかなあ。難しいですよ。どれだけいじっても、何かバランスがおかしい気がして。プロフェッショナルの作るものには、どこまでいっても及ばないですね。いじってるうちに嫌になってしまう」

「...」

「あなたの目から見て、どこがおかしいと思いますか」

私は、Kさんの気持ちが痛いほどわかった。

この人は、技術や経験がまだ少ない段階でも、使われている仕組みを理解して「ある程度のもの」「よく似たもの」を真似して作れてしまうのだ。だけど、どんなものでも「頭で理解したこと」では真似のできない領域がある。必ずある。やってる本人も、そのことはよくわかっている。だけど「追い込めばいけるんじゃないか」と思ってしまう。そして目の前の作品に固執してしまって「大事なことがなされない」まま、作品の細かいところをいじりすぎてしまう。そうして、作ったものに満足できず、疲弊してしまう。これを繰り返しているうち、だんだん、作ることが嫌になってしまう。

私は悲しくなってKさんに言った。

「もう、十分かわいいです。これはこれでいいと思うんです。年賀状としての役割も果たしました」

「そうかなあ」

「Kさんご自身、どこを直したいとかわからないでしょう」

「考え始めると色々ありますが」

「いや、やめましょう。むしろ、また描いてみたらいいと思うんです」

「私は、一つのものを作るのにものすごく時間がかかるんです」

私はこの時、自分が何をすればいいのかわかった。

「らくがきです」

「何です、急に」

「絵を描くにしろ、何か作るにしろ "一球入魂"みたいにやり続けるから辛いんです。適当にはじめて、まず描くことを楽しむんです。らくがきから始めましょう。気楽な気持ちで楽しみながら、とりあえず何か描くんです」

「...気づきがあったようで何よりですが」

「やりましょう!」

「私はやりません」

...

私は企画の建屋に行って、YさんにもKさんの年賀状を見てもらった。

「何これ..すごいかわいい」

「かわいいですよね。びっくりしました」

「Kさん、絵描くんだね。しかもこんなかわいい絵。また描いたらいいのに」

「そうですよね。私もKさんの絵をまた見てみたいです」

 

 

(6へ続く)

...

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