2021-09-01から1ヶ月間の記事一覧

自信を持って生きる (亡くなったKさんの思い出) (11終)

(1へ) ... (10から続く) 食堂を出てKさんと話した。 研究所の桜がちょうど見ごろで、やや散り始めたところだった。 「ありがとう。絵は大切に飾ります。諸々のことはまたメールしてください」 「ありがとうございます。そうだ、展示を開催するとき、ぜひお知…

自信を持って生きる (亡くなったKさんの思い出) (10)

(1へ) ... (9から続く) Kさんからの依頼を受けたあと「かぼちゃ人類学入門」という本を買った。 "かぼちゃ島"で暮らす"かぼちゃ人"のつつましい暮らしを鳥の視点から描いた本。小さい頃、この絵本がとても好きだった。絵の中に入って、自分もかぼちゃ人と一…

自信を持って生きる (亡くなったKさんの思い出) (9)

(1へ) ... (8から続く) ある日、食堂から戻る途中、Kさんがぼそっと言った。 「何が正しいなんて、ないんですよ」 自分の中で、とてもはっとする言葉だった。 「ないんですね」 「そう。ないんです」 そうして、Kさんも私も黙ったまま居室に戻った。 ... 2月…

自信を持って生きる (亡くなったKさんの思い出) (8)

(1へ) ... (7から続く) 新しい仕事は難航していた。 私とSさんは、Kさんがいない時に居室で状況を相談しあった。 「私たち、いっそ、できないことはできないって、Kさんに言った方がいいと思うんです」 「そんなこと簡単に言えませんよ。"できない"って言っ…

自信を持って生きる (亡くなったKさんの思い出) (7)

(1へ) ... (6から続く) 飛行機の絵をKさんに渡した後、私はKさんに「絵を描きませんか」と勧めないようになった。そのかわり、個人的な製作をいくつか進めた。 2017年4月に入って、新しい仕事が始まった。Sさん、私、Kさん、研究所内外の方々と連携して、シ…

自信を持って生きる (亡くなったKさんの思い出) (6)

(1へ) ... (5から続く) Kさんの年賀状と紙束を見てから、私は考え込んでしまった。 同じ夏、1枚の駅の絵の製作に膨大な時間をかけて以来、私は「次の絵」を描く気力を失っていた。暑い夏の日にスケッチに行って、数百枚の写真と数十本の動画を撮り、自宅に戻…

自信を持って生きる (亡くなったKさんの思い出) (5)

(1へ) ... (4から続く) Kさんがあまりにかたくななので、私はむしろ面白くなってしまって、食堂に行くたび、しつこくKさんに「絵を描きませんか」と言い続けた。 「Kさん」 「本当にしつこい人ですね...絵の話でしょう」 「おっしゃる通りです。描きませんか…

自信を持って生きる (亡くなったKさんの思い出) (4)

(1へ) ... (3から続く) 私とSさんはKさんの携帯に連絡しつづけた。 午後の3時を過ぎても、Kさんからの応答はなかった。 Sさんが言った。 「家で倒れてたりするんじゃないですか」 「これはもう、私たちではまずいですね。研究所の人に話すしかない」 「研究…