Kさんの思い出
(1へ) ... (10から続く) 食堂を出てKさんと話した。 研究所の桜がちょうど見ごろで、やや散り始めたところだった。 「ありがとう。絵は大切に飾ります。諸々のことはまたメールしてください」 「ありがとうございます。そうだ、展示を開催するとき、ぜひお知…
(1へ) ... (9から続く) Kさんからの依頼を受けたあと「かぼちゃ人類学入門」という本を買った。 "かぼちゃ島"で暮らす"かぼちゃ人"のつつましい暮らしを鳥の視点から描いた本。小さい頃、この絵本がとても好きだった。絵の中に入って、自分もかぼちゃ人と一…
(1へ) ... (8から続く) ある日、食堂から戻る途中、Kさんがぼそっと言った。 「何が正しいなんて、ないんですよ」 自分の中で、とてもはっとする言葉だった。 「ないんですね」 「そう。ないんです」 そうして、Kさんも私も黙ったまま居室に戻った。 ... 2月…
(1へ) ... (7から続く) 新しい仕事は難航していた。 私とSさんは、Kさんがいない時に居室で状況を相談しあった。 「私たち、いっそ、できないことはできないって、Kさんに言った方がいいと思うんです」 「そんなこと簡単に言えませんよ。"できない"って言っ…
(1へ) ... (6から続く) 飛行機の絵をKさんに渡した後、私はKさんに「絵を描きませんか」と勧めないようになった。そのかわり、個人的な製作をいくつか進めた。 2017年4月に入って、新しい仕事が始まった。Sさん、私、Kさん、研究所内外の方々と連携して、シ…
(1へ) ... (5から続く) Kさんの年賀状と紙束を見てから、私は考え込んでしまった。 同じ夏、1枚の駅の絵の製作に膨大な時間をかけて以来、私は「次の絵」を描く気力を失っていた。暑い夏の日にスケッチに行って、数百枚の写真と数十本の動画を撮り、自宅に戻…
(1へ) ... (4から続く) Kさんがあまりにかたくななので、私はむしろ面白くなってしまって、食堂に行くたび、しつこくKさんに「絵を描きませんか」と言い続けた。 「Kさん」 「本当にしつこい人ですね...絵の話でしょう」 「おっしゃる通りです。描きませんか…
(1へ) ... (3から続く) 私とSさんはKさんの携帯に連絡しつづけた。 午後の3時を過ぎても、Kさんからの応答はなかった。 Sさんが言った。 「家で倒れてたりするんじゃないですか」 「これはもう、私たちではまずいですね。研究所の人に話すしかない」 「研究…
(1へ) ... (2から続く) 私は、前からずっと気になっていたことをKさんに聞いてみた。 「Kさんは何か修行をされているんですか」 「そう、修行してる」 「どういう修行なんですか」 「坐禅を組み、大声を出して鈴を振る」 「...」 「思うほど怪しいものではな…
(1へ) ... (1から続く) Kさんは無口で、謎の多い人だった。13時頃の遅い時間から研究所にやってきた。乱れた衣服を着て、顔を真っ赤にしていた。 Yさんから「Kさん、道場で修行をしてるんですよ」と教えてもらった。 「何の道場ですか」 「坐禅を組んだり、…
2020年の1月、Kさんという方が亡くなった。飛行機の研究所で働いていたときの上司さんだった。 ずっと、この人との思い出を書きたいと思っていた。 私は、Kさんとの3年間の関わりを通じて「自信を持って生きる」とはどういうことかを教えてもらった。教わっ…