自信を持って生きる (亡くなったKさんの思い出) (6)

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(5から続く)

 

Kさんの年賀状と紙束を見てから、私は考え込んでしまった。

同じ夏、1枚の駅の絵の製作に膨大な時間をかけて以来、私は「次の絵」を描く気力を失っていた。暑い夏の日にスケッチに行って、数百枚の写真と数十本の動画を撮り、自宅に戻って整理した。絵の中に描く工業製品の構造を詳しく調べた。絵は、なんとか仕上がった。

1枚描くたびこんなに疲れてたら、先が続かない。"絵を描き続けられる"のが絵描きだ。こんなにすぐ気力をなくしているようでは、私は"絵描き"にはなれない。

そういうことをぐずぐずと考えていた。

この間、私は絵を描かなかった。

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職場では、相変わらずKさんに絵を描くことを勧めていた。

「Kさん、らくがきをはじめてみませんか」

Kさんは言った。

「毎回言いますが、そういうのは『あなたが』すればいいんですよ」

「やってみたら楽しいかなと思って」

「やりません」

「ちょっとやってみるくらい、いいじゃないですか」

「そういうのはいいんですよ」

Kさんの顔色は、度々赤黒くなっていた。

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2017年3月、年度末になった。Yさんの異動はもう1年続くことになった。

Kさんから話があった。

「4月からの仕事ですが」

「どういったお仕事でしょうか」

「大規模データから『特殊なできごとの兆し』を見つけ出してください。一体どんなできごとなのか、どのような形で埋もれているか、本当のところはわからない。その定義からが仕事です」

「...難しそうに聞こえますが」

「得意だと思いますよ。手伝ってもらえませんか」

ここまで2年続けてきた、Yさんのデータの解析は終了になった。次の1年、Kさんからの指示を受けて仕事をする。残業も増える見込みになった。

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帰りのバスの中で「絵が描きたい」という気持ちになった。

研究所のWebサイトから、研究所の飛行機の写真資料を取ってきた。

いくつかの資料を組み合わせながら下絵を描いた。

「本当に飛んでるみたいに、本当に飛んでるみたいに」と念じながら描いた。

なぜか、するする描けた。

いつも通り、気に入らないところはたくさんある。だけど「紙の向こうに飛行機がある」感じに近づいた。

ほっとした。やればできる。飛行機なんて描いたことなかったけど、やってみたら案外描ける。私はいつもこの「ちょっとだけやってみる」がとても難しい。ごちゃごちゃ考えて、何もしないでビビってやめる。ほんの少しだけ、まずはやってみれば終わることが、なぜかできない。考えすぎる。

絵を額に入れて、研究所へ持って行った。

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年度末の最終出勤日、絵の入った箱をKさんに渡した。

「これは何ですか」

「開けてみてください」

Kさんは箱を開けて、絵をじっと見た。

「我々の飛行機ですね」

「水彩で描きました」

「...」

「差し上げます」

Kさんはしばらく絵を見ていた。

それから、絵を休憩スペースに持って行った。

「どこがいいですかね」

カレンダー用のフックにひっかけた。

「ここにしましょう」

飛行機の絵は、居室の休憩スペースに飾られることになった。

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(7へ続く)

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